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2012年3月28日水曜日

【メモ】 津田一郎、『カオス的脳観 : 脳の新しいモデルをめざして』

「局所的な整合性と大局的な整合性の間に不整合が生じるときにフラストレートしたパターンが出現する。現在までの物理学で研究されてきた自己組織化過程は それを解消し論理階型を上げていく論理をその内部に持ってはいない。それに対して、生物のような情報系はそのような論理を自らの内部に構築しなければならないことが頻繁に起こる。」 (p.9)

「漸近的に3次元体積がゼロになり、2次元面上の運動より圧倒的に複雑になる運動は、2次元面がカントール集合のように重なった多様体の上の運動としてのみ理解される。多様体の厚み方向は無限個の面の断面が複雑なフラクタル構造を持つように埋め込まれ、0と1の間の次元を生み出す。」 (p.34)

「力学系のカオスは……圧縮できない無限列と圧縮可能な無限列との集合体である、ということができる。特に圧縮可能で周期的な無限列は、力学的に不安定であるので観測にはかからない。観測されるのは、圧縮できない非周期的な無限列と圧縮できる非周期的な無限列の有限部分である。」 (p.43)

「一般に2^n周期解と2^n+1周期解の近傍の様子は、見る尺度を変えてみれば等価であることがわかる。それぞれの周期解の近傍の様子を再帰的に決定する写像の関数が得られる。ちょうどカオスがでるところは、この繰り込みの操作の不動点に対応する。富田[和久]によれば、この操作はゲーデルの不完全性定理の証明の手続きとメタレベルで同型である。」 (p.44)

「アルゴリズム情報理論を使えば、不完全性、非決定性、ランダムネスはみな等価な概念としてとらえることができる。」 (p.47)

「知識体系に貯蔵されたなんらかのテンプレート(記憶の中に固定された知識やルール)との一致をみいだしたとき、我々は少なくとも問題の一部に秩序を発見したという。」 (p.52)

「初期状態の精度⊿Xと[力学系の]内的時間Tの間には、⊿XTAの不確定性関係が存在する。この不確定性関係が、初期条件と力学法則の従属関係を規定しているのである。このようにして、カオス力学系においては、初期条件を力学法則と独立には決めることができないのである。」 (p.57)

軌道に関する情報とは、二つの接近した軌道を分離して認識できるかどうかということである。このとき、
力学系の定常解が不動点や極限周期解(リミットサイクル)のような安定解である場合、情報は時間の進む方向に圧縮されていくことになる。観測者の間の情報の流れは位相空間の体積が縮む方向である。カオスのような軌道不安定性をもつものの場合、時間の進む方向と逆方向に情報は圧縮される。このことはカオスは情報を生み出すということの別の表現である。 (p.153)

「膨張宇宙の中では、時間の後に位置する世界にいる住人が常により分離された世界にいることになる。このことは、宇宙定数を我々は未来になればなるほど、細かい桁まで知るようになるということを意味する。これは観測技術の向上とは関係ないレベルの話である。むしろ宇宙定数自身の時間発展に関係する。観測技術が全く同じだとして、過去の宇宙に住んでいた人は、我々よりも粗っぽい数値しか認識できなかったであろう。これと関連して、現在、無理数と考えられている数は過去の宇宙においては、有理数であった可能性がある。もっと過去には整数であったろう。現在、計算不可能であると考えられている数も過去の宇宙では計算可能であったであろう。実数の存在は宇宙の膨張によって認識可能になったのだと考えることができるように思われる。すると、計算不可能性であるカオスは、遠い過去の宇宙では存在しなかったことになるのではないか。カオスは宇宙の進化と共に我々の前に現れたのではないだろうか。」 (pp.153-4)

「自己の確立は、反応拡散系で表現されるような自己組織過程を通じてなされるのではなく、情報的な自己言及過程を通じてなされる。」 (p.163)

「“解釈”ということが[脳の]研究プロセスにおいて、、物理学にみられるような第二義的な問題ではなく、まさに必須の第一義的な作業になるのである。この解釈の作業において、先行的理解になるのが[デビッド・]マーの言う計算論のレベルの考察である。つまり、“脳は何をしているのか”である。」 (p.194)

“動的脳観”の力学系の言葉による表現:
「自由度の大きな力学系がある。あるときは、ある部分的な自由度が活性化されそれが支配的になるが、またあるときは別の部分的な自由度が活性化されそれが支配的になる。このようなことが時空間の様々なスケールで起こりうる。そして、支配的になる自由度の再編成は、系(システム)の過去の全履歴に依存する。」 (p.202)

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