感覚の秩序:
事物は、それらが生体に対して及ぼす効果に応じて分類され、感覚の秩序へ組み込まれる。ある事物がこの秩序内に占める位置は、生体に対してその事物が及ぼす効果を表現している。
物理的世界の秩序:
事物は、それらが互いに及ぼす効果に応じて分類され、物理的世界の秩序へ組み込まれる。事物がこの秩序内に占める位置は、それが他の諸事物と取り結ぶ相互的な関係を表現している。
科学の過程は、前者の感覚秩序による事物の分類を、徐々に、後者の物理的秩序による事物の分類に置き換えて行く過程と見なすことができる。これはすなわち、事物が生体に対して及ぼす効果を度外視していく過程に他ならない。
例えば、水と塩酸は、見た目は同じであるから、(少なくとも視覚刺激に限定すれば)感覚秩序においては同じ事物として分類される。しかし、水は鉄と反応しないが、塩酸は鉄を溶かす、という風に、他の事物との相互関係に基づいて、我々は水と塩酸を別の事物として分類できる。これはごく素朴な例であるが、感覚秩序を徐々に物理的秩序に置き換えて行く過程のエッセンスを捉えていると思われる。
ここで重要なのは、物理的世界の秩序はあくまで関係の秩序である、という点。物理的な事物は、物理的構造の中のノードとしてしか意味を持たず、その構造と無関係であるような如何なる性質も持たない。「塩酸」という概念の意味は、それが他の概念と取り結ぶ関係によって尽くされており、それを超えた「塩酸そのもの性」のようなものはない。
物理的構造の実在性
『実体概念と関数概念』においてCassirerは、変換に対する頑強性を以て構造の客観性(実在性)を定義した。しかし、これだけでは、少なくとも物理的構造の場合、客観性の基準として十分でないように思われる。というのも、同じデータを説明できる構造が、一意的に決まるとは限らないからである。変換に対する頑強性という客観性の捉え方の不十分さは、経験との結び付きが欠けていることに起因している。経験を考慮するには、ある構造の予測能力が、変換によってどの程度影響を蒙るかを考察する必要がある。
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